著者を知っている人は多いだろう。
本を読まない人でも必ずと言っていいほど、ニュースで耳にするであろう芥川賞を受賞したことがある方だ。
時に芥川賞や直木賞といったタイトルは二人同時受賞という事が起こる。
羽田圭介さんが受賞した際、もう一人の芥川賞受賞者がいた。
それが「火花」で受賞となった又吉である。
ニュース性抜群だ。しかも芸人である又吉の受賞に埋もれない程の個性的なキャラクターを持った人物であり、その後テレビでよく見かけるようになった。
さて、肝心の本を読んだ感想だ。
毎度毎度、純文学と呼ばれる小説の感想を一言で言い表すのは難しい。
どうしても、それだけでは語れない複雑さを持っているから。
それでも、まずは一言。面白かった。
主人公は28歳無職の男で、今年還暦を迎えて委託勤務をしている母と、要介護3の祖父との3人暮らしだ。
無職の癖に彼女はいて、セックス相手には困っていない。
この物語は、無職の男が要介護の祖父を通して「介護」に対する姿勢、認識や、「老い」への恐れや諦め、葛藤が無職で資格試験の勉強をしているという男の立場から描かれている。
途中で親戚が集まるシーンで顕著ではあるが、彼女や母という人物に対しても、祖父への介護、老いといった視点との対比で書く登場人物が描かれていて、よりこの男の考えというものがはっきりと際立っている。
それだけにメッセージ性がつよく感ぜられた。
テーマがテーマだけに、単純に「こうするべき」といった結論は出せないが、気を付けようと思う類の引っかかりが多々あった。
それは電車で席を譲る場面で、譲られる側がどう思うかという点と似ている。
介護の場合はもっとやっかいで、被介護者の言葉や意思というものを介護者がどう捉えるかという点で難しい。
この難しい題材を、リアルに描きあげている。
こういった内容であるし、単純に面白いという言葉で言い表せないという事が分かると思う。
私は、若い。
これからの時代、介護という問題が浮き彫りになってくるのは間違いない。
そういった時代を生きる者として、この小説の内容はどうでもいい事とは思えず、多くの引っかかりを残している。
私の祖父母はまだまだ健在で、両親は若くして私を産んだので、まだまだ若い。介護とはまだまだ縁遠いと思っていたが、何がどうなるかは全く分からないのが世の中である。
備えあって憂いなし、これも何かの縁であり、導きだろう。
介護について、一度考えておくことは将来の自分を助ける事にもなるだろう。
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