彼のダイヤモンド。
彼は裕福な家庭の生まれである。
両親は勤勉だが、厳格ではなく、おおらかな余裕を讃えて笑顔の多い人格者であった。
だからこその経済力だったのだが、子供のというものは必ずしも親に似るものではないという儘ならなさは、古今東西、時代、土地、文化によらず浸透している共通の認識ではなかろうか。
つまりはイージーモードのドラ息子。
知りたい事、欲しい物はおおかた手に入る環境と、自分を疑わぬ物言いの傲慢さと刺激的な感情を欲する享楽的な性格は、高校生ほどの年齢になると、邪知暴虐の王を彷彿とさせるふるまいとなり、彼は人々の中心に君臨していた。
彼を中心に密集する仲間の数々は充填率74%の六方最密構造を思わせたが、ある日の出来事を境に、充填率34%、彼の好きなダイヤモンドの結晶構造のようにスカスカになってしまった。
たまごやき。
彼の好きな食べ物は以外にも砂糖の入った甘いたまごやきである。
彼の傲慢さは、支配性、格上の風格を醸し出し、とりまきの女性は多かった。
その女性たちに作らせている彼の昼飯は、いつもたまごやきが入っていた。
日替わりなのは、作り手だけである。
その日の作り手の女性が、彼女でなければ彼はまだ威厳を保てていたかもしれない。
彼女はとりまき女性の中でもボス的存在で、カリスマ性で言えばドラ息子よりも才能を持ち合わせていた。
彼女のたまごやきを、彼は落としてしまった。
周りの大半は思った。3秒ルールだと、食べれると。しかし誰も言わない。
彼女は言った。
「3秒ルールなんて、衛生面の安全を全く担保できない俗的無意味のルールとは存じ上げておりますが、それでも私はあなたに、召し上がっていただきたいのです。」
彼はとりつく島もなく、それを拒否した。
彼女は悲しさを隠すことはできず、床のたまごやきを涙で濡らしながら片づけ、無言でその場を離れた。
次の日、彼はダイヤモンドになった。
すかすかで、距離のある、寂しいダイヤモンド結晶構造の王として、高校生活を過ごした。
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