竜とそばかすの姫/細田守 監督

映画鑑賞

過去の辛い出来事をきっかけに歌を歌えなくなった女の子が主人公の物語。

細田守監督が手掛ける、小説原作のアニメ映画。

以下、小説裏表紙の作品紹介文。

高知の田舎町で父と暮らす17歳の高校生・鈴は、幼い頃に母を事故で亡くし、現実世界では心を閉ざしていた。だが、もうひとつの現実と呼ばれる、インターネット上の超巨大仮想空間『U』に「ベル」というアバターで参加することに。ずっと秘めてきた比類なき歌声で瞬く間に世界中から注目される歌姫となった鈴は、『U』の中で「竜」と呼ばれ恐れられている、謎の存在に出逢うー。細田守監督が自ら書き下ろした原作小説!

竜とそばかすの姫(細田守)/角川文庫

以下、ネタバレ含む感想。

この作品は主人公が現実に抱えている、過去の辛い出来事をきっかけに心を閉ざしがちになり、大好きだった歌も歌えなくなったという問題が、仮想現実世界『U』の世界とその世界で起こる出来事を通じて、結果的に解決へと導かれる物語だった。

現実にある如何ともしがたい問題、もはや悩みを通り越してその状態が当たり前となり、どこか充実感といったものを諦めてしまったような生活を送る中で、友人のヒロちゃんの誘い(invitation)により、仮想世界『U』の世界で華々しく才能を開花させるシーンは、何か劇的な変化がないかと悶々とした気持ちを知っている人であれば、つまりはほとんどの人が清々しい気持ちになるのではないだろうか。

よくあるパターンでいまさらそんな展開に興奮なんてしないという人も多いかもしれないが、この作品はそんな荒んだ心さえも洗い流してしまうほどに演出が良い。

仮想世界の奥行き感や光の演出がキレイで、なにより歌がいい。

これは映画館で見るべきポイントで、広く奥行きのある世界観は映画館の大画面によって、より世界に没入出来るし、その広い世界すべてに澄み渡るような透明感と浸透感のある歌声は広い空間の中で大音量で聞くことが出来る映画館がベストだ。

突如『U』の世界にぽつんと現れた名も知れぬ主人公のアバターが、匿名の世界に来たばかりでいきなり歌を歌い始める。

ここでの周り反応がリアルだった。最初から最後までとても良い歌なのだが、周りの反応は最初から良いわけではない。情報の全くない初めて知る人の歌、声に対して、どういうスタンスから入るかというものが、人それぞれなのだ。最初から自分の価値観のみで良し悪しを判断し、その判断を一貫する人ばかりではない。最初の判断は飾りのようなもので後から分かってくる大衆の反応に同調していく人もいる。最初に自らの判断をせずに同調していくだけの人も多い。そんなリアルも他のアバターの声として描かれつつ、徐々に主人公は多くの支持を得て、『U』のトップアーティストとなる過程はあっという間で、その疾走感とともに痛快な夢の実現を感じられる。

そして、問題が起こる。

この世界に突如現れた暴君。「竜」とよばれるアバター。

この竜は相手への配慮の欠片も無い、まるで鬱憤を晴らすかのようなファイトスタイルで叩きのめすモラルのないふるまいから、『U』のなかで忌み嫌われていた。

そんな悪を滅するかの如く現れるのが「ジャスティス」よばれる集団。この集団は自称ではあるが、『U』の世界の正義と秩序を守るという理念のもと、アバターの姿を現実の世界の姿にする(アンベイルと呼ばれている)武器を掲げて、悪を懲らしめているらしい。

「竜」もこの「ジャスティス」の目に留まり、追われていた。

「竜」は「ジャスティス」からの逃走劇中に、ベルのコンサートに乱入してしまう。

そこで、「竜」と「ベル」は初めて出会う。

「竜」の抱える問題。『U』の世界では、成功をしている鈴が現実で抱える問題。

それぞれが絡み合い、葛藤の中、周りの人達の支えもありハッピーエンドへと紡がれていく物語は王道だが、それでいい、こんな真っ直ぐに人の成長を描く作品に奇をてらう展開など必要ない。

美しく温かみのある物語だ。

とはいえ無難にまとまっているというわけではもちろんなくて、キャラクターは面白いし、歌、音楽、映像がとにかく綺麗。

正直言ってしまうと僕は、綺麗で美しい歌と映像だけで、感動して泣けてしまう人なので、ストーリーの複雑さやメッセージ性といった多くの人が重視する点に対しての評価は甘いと思う。

アニメ映画で音楽がいい作品はやっぱり映画館で見たい。

キャラクターも可愛くて、ほっこりした。

ルカちゃんは、学校1の美女とされながら、好きな人相手にはアホっぽくなってしまう所がカワイイ。

ヒロちゃんは、頭が良くて大衆心理を利用して『U』の世界と主人公の歌の才能のプロデュースをし、思い通りにいくとゲスな笑いを立ててよろこぶ面がありながら、友達思いであるうえに優秀さと優しさと前向きな思考にめちゃ好感が持てるし、声優があの、幾田りらで、しかもめちゃうまいという所もポイント高い。

カミシンは、純ピュアマッチョでアホな所がこれまた可愛く、その態度によるちぐはぐでコミカルなやり取りが面白い。駅でのルカちゃんと鈴とカミシンのシーンが面白くて大好き。

幼馴染のしのぶくん、イケメン、最初から最後までイケメン。あと優しい。大事な所で、機転が利いて決断力もある。あとイケメン。乙女みたいな感想しか出てこなくなるくらい、イケメン。

合唱団のおばさん衆も、いい雰囲気出している。幸せとは何かという、ぶっちゃけた鈴の返しに対する個々の反応がこれまた面白かった。

気弱で小心者の主人公が、仮想現実世界と関わることでぶつかる危機や葛藤を経て、その心もちが変わり、未来が明るく見えてくる物語に癒されること間違いなし。

歌も映像もキャラクターも大好き。これは、気分が落ち込んだ時に再鑑賞するといい。

以上。

コメント