身震いをするほどに冷たい夜風につかり、真っ黒な空を見上げる。
夜という時間が世界から色を奪っているのか、僕の目が色を写さなくなったのか、真っ暗だ。
そんな時こそ、言葉の出番だ。
言葉は真実のみを語るものではない。
むしろ、真実ではないことを語ることで真実を創ってきた。
言葉を人だと信じ、言葉を世界だと信じ、思い込み、人間は生きてきた。
冷たい風が、塊となって顔を殴ってくる。
右足と左足を交互に前へ出している事だけを観測する。
ポケットに入れた右手と左手が交互に、ポケット裏地を撫でる。
鼻だけで息をしている。
夜は深い、晩御飯の香りはどこからも漂ってこない。
口で息をする。
風に味は無い。
空を見る。
頭の上から真っ直ぐ下に向かって一筋の流れ星が真っ黒を切り裂き、そして溶けるように消えていった。
真っ暗な世界に距離は無く、いつかこの手に流れてくるのではないかと思った。
そういう淡いお伽のような世界を生きていくのだと思うと、少し気が滅入り、そして少し顔が綻ぶ。
お伽の世界が輪郭を持つことはないと知りながら、それでもその縁を掴もうと空を彷徨う手。
それが僕だ。
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