午後4時半頃、会社の階段を駆け上がり、踊り場に足をかけた時、ふと左の大きな窓の方を見た。
そこには、西に沈む太陽の日を受け魅惑的な赤に光る薄い雲があった。
神秘的に赤く光る雲は横長に広がり、その輪郭は霞みつつも、背景の空はまだ夏の青が濃く、ぼんやりとした輪郭がなぜかはっきりと見えているようで不思議だった。
席に戻ると皆あくせくと働いている。
1人でもいいから、あの空を見て、美しいと感じた人がいればいいなと思った。
今日は走った。
いつもの堤防ではなく、住宅街を駆け抜けた。
足音がうるさいのではないかと気になったのも最初だけで、次第にペースをつかむとなにやら楽しくなる。
汗なんか気にならない。虫にぶつかるのも気にならない。いや、気持ち悪いと思うけれど、同じ地球に住んでいるんだぶつかり合う事もあるさ。人間と同じだ。
そういえば、朝通勤するときに、茜トンボが穂の実った稲の絨毯の上にたくさん飛んでいるのに気づいた。小学生の頃を思い出す。トンボをつかまえるのに夢中だったあの頃。
今ではとても捕まえる気に名ならないが、他の虫に比べて、嫌悪感が無い事に気づいた。
なぜだろうと考えた時、トンボはぶつかることが無いことに思い至る。
小学生の頃も、トンボはたくさん目にするにもかかわらず、触れにくい存在であったから、あんなに夢中で捕まえようとしていたのだ。
寄ってくるものはむしろうっとうしく、存在を知らねば興味が湧くはずも無く、絶妙な距離感を保っていたのがトンボだったのだ。
懐かしい。
僕は言葉を紡ぐことによって、感情を思い出す。
コメント