振り向くと鳥居がありました。
その鳥居は今しがた通り抜けたばかりの、町に溶け込む小さな寺の小さな鳥居でした。
ほとんど毎日下をくぐっているその鳥居を、なぜ今突然振り向こうと思ったのか、自分の行動と思考に全く整合が取れず、半ば錯乱に近い混乱状態でした。
ただ、その小さな鳥居の先の境内はやけに厳格で老獪な印象でした。
何かの節目かもしれないと思った。
僕という母体を離れた人間の身体には、何か転換期的なものがあって、その節目には自分の意識といったものを離れた不可解な行動を引き起こすのではないかなどと考えた。
しかし、自分の意識を離れたところの行動なんて思えば日常である。
睡眠から目覚めようと思ってから目覚める人はいないだろう。
ただ、そこから一日が始まる。
今日から何かが変わり、何かが始まるのかもしれないと思って少しだけ希望が湧いた。
鳥居の右上の空には、いつの間にか満月が現れていた。
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