私は美しい涙を流せる女。
限りある人生、たくさん美しい涙を流したいと思っているわ。
でも、、涙の似合う女にはなりたくない。
私には好きなものがたくさんあるの。
人が人を愛する映画、人が物を愛する映画、物が人を愛する映画、他人を愛する映画、そして自分を愛する映画。
あとは、そう。世界中のため息を全て包み込むような夕陽。
そんな夕陽を彼と見ていた。
私が泣いているのはいつもの事で、彼が頭に手を置いて、決してこっちを見ないのもいつもの事。
そして彼はいつもこう言うの。
「笑わない人間だっているよ。笑わなくていいよ。」
そう言ってほほ笑んだ彼の横顔にぼんやりと光る、夕陽に照らされてオレンジがかった優しい右目はどこを見ていたのだろう。
私の笑う顔を想像してくれていたらいいなと思った。
一度だけ、笑った顔も見てみたいと小さくつぶやいていたのを覚えている。
その時に私は憧れたの。笑顔に。
私はまだ彼の前で一度も笑ったことがないはずで、私は彼の想像する私の笑顔に憧れているの。
私が彼に笑顔を見せる時には絶対に、彼にとって理想の私の笑顔を見せるの。
でも私は笑わない女。
その代わりに美しい涙を流す女。
彼は私の美しい涙に恋をしてくれていると言っていたから、彼は私の笑顔をそんなに望んではいないかもしれない。
きっと私のエゴなの。
私は彼の笑顔に憧れてもいるの。だから、私も彼のように笑いたい。
でも、私は笑えない女。
笑わない人間に生まれた自分は好きではないわ。
美しい涙を流せる所は大好きだわ。
夢は彼にとびきりの笑顔を見せる事。
そして、彼に言ってもらうの。
「笑顔も素敵だね。」
って。
彼は朗らかに笑いもするし、美しい涙もする時もあるわ。
私はどちらも好きだけれど、やっぱり人には笑顔が似合うと思うの。
だから私は涙の似合う女にはなりたくない。
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