「夏の大三角って知ってる?」
小学3年生の息子が突然、試すような目で聞いてきた。
天体に特別関心を抱いたことは無かったが、夏の大三角自体が有名だし、私の好きなアーティストのsupercellの楽曲「君の知らない物語」の歌詞に出てくるから星の名前くらいは知っていた。
「知ってるよ。デネブとアルタイルとベガって星で結んだ三角形の事でしょ。」
「なんだ知ってるんだぁ。」
息子は少し残念そうにつぶやいた。
「あ、じゃあ、冬の大三角は?」
私は一瞬、表情が固まった。ピンとこない。しかし有名な星の名前3つだろう、聞いたことはあるはずだ、有名な星の名前3つ、知っているはずだ、そう思うものの、なかなかパッと出てこない。そう、冬の星座といえばオリオン座。だから、
「えーと、確か冬の星座のオリオン座の星、そう、ベテルギウス!」
私が答えるのに時間がかかっていると、息子がこれは知っていたら母に自慢できるかも!というような顔でこちらを見ていた。息子相手にむきになっているわけではないが、なんとなく悔しい。もう少し考えてみる、と、ひらめいた。
「思い出した!シリウスだ!」
リーチだ。ここまでくると、どうしても思い出したくなる。思い出せ~、冬の空をデコレーションする美しい星々を、オリオン座とともに輝く星々を。しかし、どんなに目をこらしても前が見えない真っ暗なトンネルに入ったかのように、手がかりの一筋もつかめないような気分になり、これは頭のどの引き出しにも答えは入っていないのではないかという気持ちになる。
息子の表情が少し曇っていた、あと1つ応えられてしまったら、自慢が出来ないと思ったのだろう。しかし、残る1つの星の名を思い出せず悔しそうにしている母の表情を見て、徐々にこれは自慢できるぞ!と目に輝きが満ちていく。その純真無垢な期待が可愛らしく、自慢気に答えを披露する息子を想像すると、もう私の思考は三角形をつくることを諦めた。
「あ~、ダメだ。あと一つ。分からない。」
ギブアップだ。私には面積を持たぬ冬の直線しか描けない。
「え~お母さん、知らないの~?こいぬ座のプロキオンだよ、お母さん、知らないの~?」
二度も言うか。
うーん、なんとも憎らし、もとい、愛らしいのだろう。しかしプロキオンか、聞いたことあるような無いような。これは、いくら考えても浮かばなかったなと思い、少しほっとした。あ~!それだよ、それそれ!も~なんで思い出せなかったんだ!と悔しい思いをするのを少しだけ恐れていたのだ。
そろそろ春だ。オリオン座も見られなくなるから、当然、冬の大三角もしばらく見られなくなるわけだけど、一年後までこんな知識自慢以外に使い道のない雑学、覚えていられるかな。
「じゃあ、お母さん。シリウスはなんていう星座の星か知ってる?」
ああ、そうだ。好奇心旺盛で優秀な息子がいる。
「知らないな~、よく知ってるね、すごい!お母さん忘れたくないから、たまに抜き打ちテストしてよ。」
息子は得意げな、そして嬉しそうな顔でいいよといい、言葉を続けた。
「シリウスはおおいぬ座の星だよ。じゃあ、次は土星のガリレオ衛星って知ってる?」
しまった。
私はこれから数週間、慣れない単語に頭を痛ませることになった。
使用必須ワード「冬の大三角形」,「一年後」,「デコレーション」
なかなか書き始められなかった。少し外を歩き、月を見ながらこの3つの単語を思い返したくらい。結局、構想もなにも浮かばず、適当に3つの言葉をつないで、3行くらいのキャッチコピー的な文でいいやと投げやりな気持ちで書き始めた。書き始めたら、それまで少しも考えていなかった流れが不思議と目の前に現れて、語が連なっていく。面白いかどうかは二の次で、とにかく止まらない。
楽しかった。
次はもっと短くまとまった文にするように意識してみよう。
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